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◯ それぞれの出会い
ヒュパティアが講義を行った 学術研究所「ムーセイオン」 |
辺鄙な修道院で、愛情あふれる師父に育まれたピラモンには、ヒュパティアの声音が心に沁みたのだ。彼女もピラモンに非凡さを感じ、全ての講義を自由に聴講できる入場証を与えた。
ヒュパティアは学問と哲学の力によって、彼をキリスト教的な無知や狂信から解放し、神々の社にふさわしい人間に仕立てたいと考えていた。一方、ピラモンも、奔流のように押し寄せる新知識を日々吸収することで、新たな師の期待に応えようとした。
やがて、正体不明の支援者のおかげで経済的にも余裕のできた彼は、哲学者風の衣装で身を包み、信仰からしだいに遠ざかっていった。
そんな折り、ペラギアがゴート族の一党とともにムーセイオンに現れた。奪った財宝で贅沢な楽園暮らしをしている彼らは、退屈しのぎにヒュパティアの講義を見物しようと思いついたのだ。美貌ではヒュパティアに勝るとも劣らないペラギアは、幼いときから音楽と踊り子としての訓練を受け、娯楽と虚栄・際限のない浮かれ騒ぎの中で生きてきた。そして、この時代の多くの人々と同じように、彼女も正邪の概念とは無縁の生活を送ってきた。
しかし、ゴート族とのつき合いを重ねるうちに、彼女の中に変化が生まれた。彼らの自由だが誠実な心根、あるいは進取の意欲に感化された面もあるが、なによりも彼らの若き首領アマールへの崇敬と愛着がその根幹だった。彼のために生きたい、地の果てまでついて行きたいと願い、そのためにはどうあれば良いかを模索するようになっていた。
一方、ピラモンはそのペラギアが実の姉かも知れないと聞かされ、やはり、経験したことのない感情に襲われた。二人は名家の姉弟であったが、アテナイが蛮族の掠奪を受けた際に、奴隷市場に出された。ピラモンは老師アルセニウスに救われたが、美少女だった姉は妖婆ミリアムに買われたというのだ。
確かめるためにミリアム婆を訪ねようとしたピラモンだったが、キリスト教徒達に見とがめられてしまう。今では異端者として追われる身となっていたのだ。ピラモンを追う一団はしだいに暴徒化し、彼をかばった都督にも襲いかかる。二人はゴート族の屋敷に逃げ込み九死に一生を得るが、大司教と都督との衝突はいよいよ避けられないものになっていった。
ラファエルが将軍父娘に出会ったのは イタリア半島南部のカンパーニア地方 |
一方、旅を続けるラファエルは、戦闘が行われたばかりの荒野で、年老いた将軍マヨリスクとその娘ウィクトーリアを救う。彼らは、アフリカ総督に率いられ、反乱軍として戦ったが、ローマ軍に破れ置き去りにされたのだ。
二人をオスティアまで護衛することになったラファエルは、道すがら娘の示す純粋さや屈託のない気丈さに好感を抱く。世間との関わりを嫌い虚無的な風を装うラファエルだったが、娘がローマ軍とおぼしき一団に捕えられたときには、我を忘れて打ちかかっていった。が、それは友軍で、指揮をとっていたのは父と妹を救うために引き返してきた兄だった。
カルタゴに向けて潰走する船団の中は、どこも悲惨な状況だった。しかし、老将軍マヨリスクの船にだけは、平安な空気が流れていた。傷病者で満ちている点では他の船と同じだが、泰然と構えた老将軍のもとで、兄妹がきびきびと看病し、ウィクトーリアは励ましの声をかけ続けていた。
老将軍は、アフリカ総督と最後まで運命を共にするつもりだったが、ラファエロの説得に応じ舵を転じた。敬虔なキリスト教徒である彼らは、敬愛するアウグスティヌス司教に、今後の身の振り方を相談することにしたのだ。
港町ベレニケで、ラファエロは将軍らの前から姿を消し、シュネシオス司教のいるキュレネを目指した。シュネシオスは哲学者からキリスト教に改宗した司教で、妻帯者でもあった。
蛮族の襲撃が続いており、常に死の危険にさらされているような地域で、一週間の旅を決意したのは、結婚と信仰の問題について聞いてもらいたいことがあったからだ。
ウィクトーリアとの結婚を望むようになったが、自分がユダヤ教徒であることや、金儲けのために重ねてきたこれまでの悪事を思い、その一歩を踏み出せずにいた。
シュネシオスは「人も悪魔も恐れない」と豪語するラファエロが、ウィクトーリアとの結婚に対しては急に臆病になるのを、彼女の善性に対する畏れと看破し、君自身の気高さの証であるから改宗しても自分を偽ることなく信仰生活を続けられる、と保証する。
ラファエルはシュネシオスとダチョウ狩りに行き、蛮族に襲われている老将軍の一家に行き会う。再び彼らを救うことになったラファエルは、彼が姿を消して以来ウィクトーリアが体調を崩していることを知らされ、心に激しい痛みを感じると同時に大きな喜びにも満たされた。
本稿は、チャールズ・キングズリー著「ヒュパティア 古い相貌の新たなる論敵」のあらすじですが、日本語訳はhttp://homepage-nifty.com/suzuri/index.htmに依っています。詳細な訳注も大変参考になりました。ありがとうございました。
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