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「生物の歴史」から「人類の歴史」へと筆を進める前に、素通りをした古生物界の大スターである恐竜についても、触れておきたいと思う。
「恐竜絶滅の謎」(アドリアン・J・デズモンド著 加藤秀 訳、二見書房)は、多くの人が恐竜に対して「巨大で鈍重なトカゲ」というイメージを抱いていた時代に、「鳥に近い、温血の動物」という斬新な恐竜像を示した入門書である。恐竜研究の黎明期からの歴史が記されており、研究者たちのドタバタともいえる苦闘のようすが興味深い。
◯ モササウルス
海表面で生活する肉食の大型ハチュウ類。 大きいものは体長18メートルに達した。 |
◯ イグアノドン
当時水晶宮に展示されたイグアノドンの
像(左)と現在考えられている復元図(右)
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◯ ラエラプス
コープが描いた恐竜ラエラプス |
コープは、アメリカを代表する古生物学者だが、エネルギッシュなあまり慎重さに欠けるところもあった。尻尾の先に頭骨を取り付け、それをエラスモサウルス(リボンのような爬虫類)と名づけた失敗は、古生物学者マーシュとの確執にまで発展した。
◯ ディプロドクス
体長(約30m)に対して、体重40tは 巨大恐竜の中でもスマートな部類 |
しかし、彼は直立して生活するほ乳類や鳥類が、這って生活するワニやトカゲにくらべて莫大なエネルギーと酸素を消費していることに着目し、恐竜も立ち続けているためには、体温を高く保ってエネルギーを産み出し続ける必要があったはず、と考えた。
恐竜温血説には、骨の微細構造や生態学の分野からも賛同者が現れ、1973年にかつての北極圏にも恐竜の進出していたことが明らかになり、その正しさが証明された。仮に、恐竜の生理機能がトカゲと同じだとすると、ティラノサウルスはもちろんダチョウによく似たストルチオミムスでさえ、ヒトの歩く程度にしか全力疾走できないことになるそうだ。
その60年ほど前に、カーネギー研究所のヘイも、冷血の恐竜には立ち続ける体力の無いことに気づいていた。
しかし彼は、「恐竜は冷血」の考えを捨てきれず、ディプロドクスはワニのように水辺を這って生活していた、と結論づけてしまった。
ワニと違って胴が扁平ではないので、地面に溝がないと歩くことができない等、後に誤りが指摘された。
ちなみに、私の所有する子ども用の古い図鑑には、巨大恐竜が水中から長い首を出して呼吸するようすが描かれている。が、これも実際には水圧が大きいために不可能であることが明らかになった。現在では、これらはみな水辺や水中ではなく草原で生活していたと考えられている。
◯ 始祖鳥
昆虫を捕えるのにも役立ったはずと 著者のデズモンド氏は考えている。 |
そのため、これこそが進化の事実を示す「動かぬ証拠」と考える研究者と、それに反対する研究者の主張とがぶつかり合い、見解が定まるまでに100年以上を要した。
1973年に発表された、オストロムの論文以降「始祖鳥は小型の恐竜が保温のための羽毛を手に入れることで誕生した」との見方が定着しつつある。
羽毛はあったが、体重や筋力・骨の構造などから、空を飛ぶことはできなかったと考えられている。真の鳥類が出現したのは1億4千万年後で、歯や尻尾をなくす減量が必要だった。
長いあいだ、始祖鳥は「恐竜より古い時代の冷血ハチュウ類に羽毛が生えたもの」で、恐竜とともに一掃されたと思われていたが、恐竜から始祖鳥を経て鳥へと続く進化の道筋が示されたことで、巨大だがのろまなトカゲと思われていた恐竜のイメージも、鳥によく似た俊敏で知能の高い生き物へと変わっていった。
◯ 翼竜
テラノドンとプテラノドンは 同じで、歯のない翼の意味。 |
現在は、鳥と同程度の高い知能を持つ温血の動物で、全身が毛に覆われ子育ても行ったと考えられている。大きさについても、はじめは「最大でも大型のコウモリ程度」と推測されたが、およそ100年後に発見されたテラノドンは翼のさしわたしが7メートルにもおよび、優れた滑空能力で生涯のほとんどをアホウドリのように、空中で過ごしたと考えられている。
※ 1970年代になると、テラノドンの約2倍の大きさを持つケツァルコアトルスなどさらに大型の翼竜が発見された。
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