2017年4月10日月曜日

② バベルの塔

《バベルの塔》
 ヒラルムはエラム(現在のイラン地方)に住む鉱夫だ。塔の建設に参加するために、ロバをつらねた商人のキャラバンといっしょに陸路をたどりバビロンへやってきた。何世紀もかけてレンガを積み上げてきた塔がついに天に届き、残された仕事は空の丸天井に穴を開けることだけになっていた。
 塔は基部の一辺が100m高さ20mの四角い台座の上に築かれている柱だ。周囲を通行用の坂道がらせん上にとり巻いている。坂道はむき出しではなく、日陰をつくるための幅広の柱によって、太陽の日射しから守られている。そこを、車力と呼ばれる専門家が建設資材をのせた荷車を引き4日間かけて登る。その先には別の車力が待機しており、さらに4日分だけ上に登る。このようなバトンタッチを繰り返して、必要な物資は上に届けられる仕組みだ。
 塔の途中の所どころには小さな町がつくられており、そこには神殿や商店もある。職人とその家族だけでなく争い事を裁く判事も住んでいて、中には一度も地上に降りたことがないまま生活している者もいる。ヒラルムは荷車の一団といっしょに塔を登り続け、およそ4ヶ月で先端に到着した。
 空の丸天井に穴を開ける作業は、ツルハシで岩を突き崩せば良いというような単純なものではない、ちみつな花崗岩でできているらしい丸天井は固く、削り取ることは困難で、何よりも穴の場所によっては天の貯水池の底が抜けて、再び大洪水を起こす危険もある。
 石の専門家であるエジプト人のチームと力を合わせ、丸天井の掘削はすすめられた。万が一、水が吹き出してきた場合に備え、それを遮断するための巧妙な仕掛けを何重にも用意した。そして遂に、空の丸天井に穴の開く日がやってきた。

テッド・チャン著「バビロンの塔」より
(「あなたの人生の物語」早川書房 所収)

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