2018年1月28日日曜日

⑬ ローマ帝国(3) 共和制から帝政へ

 ローマの覇権が広がるにつれて、既得権を守ろうとする守旧派と改革派が対立する等、国内での政権争いが激しさを増した。第一回三頭政治の一角、ジュリアス・シーザーも政争の標的にされ、元老院から軍隊の解散を迫られていた。
 前49年、帰還の途にあったシーザーは、国賊となることを承知でルビコン川を渡り、ローマに進攻した。翌年、かつての盟友ポンペイを打ち破ってからもエジプト、小アジア、北アフリカに遠征を重ね、前45年のムンダの戦いに勝利して内戦が終結した。

◯ お前もか、ブルータス
(「ジュリアス・シーザー」シェイクスピア)
 ジュリアス・シーザーの凱旋にローマ中が沸き立っていた。祭りに集まった民衆の前で、腹心の部下アントニーが差し出した王冠を、シーザーが三度とも固辞すると、群衆はその度に喜び喝采した。しかし、一部に「あれは野心を隠す、人気取りのための演技だ」と苦々しく感じる者たちもいた。
 キャシアスは、栄光がシーザー一人に独占されるのを喜ばない者たちの中心人物。「ローマに王を認めるくらいなら、いっそ悪魔に統治をゆだねるほうがまだましだ」と、ブルータスをそそのかす。シーザー暗殺計画に、高潔の士であるブルータスが加われば悪事も悪事と思われないからである。
 また、群衆の中に「3月15日に気をつけよ」と告げる占い師もいたが、シーザーはその警告を無視する。

 キャシアスの謀略である偽手紙などによって、ブルータスも次第に「シーザーは高潔の士であるが、権力を得た時には暴虐の徒にならないとも限らない」と考えるようになり、陰謀に加担する。3月15日の朝、シーザーは悪夢に怯える妻を案じて、一旦は登庁を思いとどまるが、一味のディシアスがその夢を「実は慶兆」と曲げて解釈し登庁を促す。
 暗殺者たちは、シーザーを取り囲むようにして道を進む。警告しようとする者やシーザーの部下を巧みに遠ざけ、ついに議事堂で周りから一斉に襲いかかる。シーザーは、刺されながら暗殺者の中にブルータスの姿を認め「お前もか、ブルータス。なら、死ね、シーザー」の言葉を残して絶命する。

 アントニーは暗殺者等に恭順の意を示し、かわりに追悼の言葉を述べさしてほしいと願い出る。広場でブルータスが「シーザーは王位を望んだ。奴隷の境涯を欲するローマ人がいるなら謝罪しよう。私はローマのためを思って、最愛の友を刺した」と演説すると、市民たちはブルータスを讃え、彫像を立てよう、王冠をかぶせよう、などと叫ぶものも現れた。
 しかし、続いてアントニーがシーザーの生前の徳を讃え、遺言状を公開すると、群衆の心理は一変した。ブルータス等を「謀反人」と呼び、家を焼きはらえと叫ぶ暴徒と化した。

 ブルータスとキャシアスはローマを逃れ、決戦に備えて軍隊を構えた。一方、入れ替わるようにシーザーの子オクテヴィアヌスが帰還し、アントニー等と処刑者のリストづくりやシーザーの遺産配分の計画に取り組む。
 オクテヴィアス、アントニー、レピダスの三人によって、元老院議員の70名以上が死刑に処せられた。さらに、妻ポーシャが自害したとの知らせがブルータスのもとに届く。ブルータスとキャシアスはフィリッピを決戦場に定め、オクテヴィアス等の軍を迎え撃つことにした。

 戦いの結果、ブルータスとキャシアスは敗れ自害する。アントニーは「ブルータス一人が公の大義に従う高潔なローマ人だった、他の暗殺者どもはみな偉大なるシーザーへの憎しみに駆られただけだ」として、ブルータスには礼を尽くして葬儀を行うことを宣言する。
*安西徹雄氏の訳書(光文社 刊)を参考にしました。

◯ クレオパトラの鼻がもう少し低かったら・・・
(「アントニーとクレオパトラ」シェイクスピア)
 シーザーに取って代わろうとした暗殺者の一味を滅ぼし、アントニー、オクタヴィアヌス、レピダスによる、第二回三頭政治がはじまった。オクタヴィアヌスとは、ジュリアス・シーザーの養子、オクタヴィアヌス・シーザーである。
 目下のところ、最大の実力者であったアントニーは、ローマ東方域の執政官となるが、属州エジプトでクレオパトラの色香に迷い、長逗留を続ける。好色の放蕩者との噂が立ち、本国では義弟と妻が兵を挙げ死亡する事態にもなっていた。一方、クレオパトラは、アントニーの気を引いておきたい一心で、仮病を使ってでもエジプトに留めようとする。

 アントニーは、父をシーザーに殺されたセクトウス・ポンペイの軍勢がローマに迫っているとの知らせを受け、ようやく重い腰を上げた。しかし、ローマには、ポンペイと旧知の仲であるアントニーに不信感を抱く者が多くいたので、友情の証として、オクタビアヌスの姉との結婚を承諾した。
 ポンペイはローマとの和議に応じ、船上で宴会を催す。その最中、部下に敵将どもの暗殺を勧められるが、名誉を重んじてこれを却下する。アントニーともすっかり意気投合するが、時を経ずして、ローマ軍との戦いが再燃し処刑される。
 またその時、レピダスも陰謀を暴かれ追放されたために、シーザーとアントニーの対立がいよいよ浮彫になった。戦闘が避けられない情勢となり、妻オクタヴィアをシーザーの元に帰したアントニーは、エジプトに向かった。

 クレオパトラは重臣の制止をはね退け、自ら船団を率いて参戦することにした。アントニーも得意な地上戦を捨て、海戦でローマ軍と決着をつけようとする。クレオパトラとともに乗船するアントニーを指して、副官は「エジプト女の言いなりになってしまわれた」と嘆く。
 戦場でもアントニーはクレオパトラに翻弄される。戦況は有利に思えたが、虻が一匹クレオパトラにとまったとたん、彼女の乗る旗艦が帆をあげて脱走をはじめた。アントニーの艦もその後を追ったために、アントニーとエジプトの連合軍は総崩れとなった。

 オクタヴィアヌスは、降伏の条件として、クレオパトラを赦す代わりに、アントニーの命を差し出すことを求める。使者の報告を聞き喜んだクレオパトラだが、一方で、最後の一戦に臨もうとするアントニーを甲斐がいしく助ける。
 初日の地上戦は、アントニー軍の奮闘でローマ軍を敗走させたが、翌日の海戦でエジプト軍が早々に降伏したため、アントニー軍も壊滅的な打撃を受けた。

 アントニーから「裏切り者」と責められ、クレオパトラは廟に籠る。彼の心を試すために、使者を送り、自分の死を伝えさせると、偽りとは知らずにアントニーは、絶望のあまり剣を胸に突き立ててしまう。クレオパトラは死に瀕したアントニーと最後の別れをする。


 オクタヴィアヌスはクレオパトラと会見し、将来の安全を約束する。が、ローマ重臣の口から、凱旋パレードの見せ物にする計画が漏れ、これを拒絶。毒蛇を抱いて、アントニーの後を追う。
* 福田恆存氏の訳書(新潮社 刊)を参考にしました。

 隣にいる妻の、心の内を察することもできない私には、時を隔てた異国の女王の本心を知ることは、とてもできない。エジプト王朝を守るために、歴代のローマ将軍と恋愛関係を築いてきた女性なので、アントニーとの関係にも打算はあったと考える。が、それだけではない女性としての「純情」も随所に感じとれる。
 実際のところ、人の心には「打算」と「純情」とがないまぜになっており、その占める割合が、時や場に応じて揺れ動いているように思う。

 さて、アントニーに勝利したオクタヴィアヌス・シーザーは、名目上はローマ市民の代表との立場をとるが、実質はローマの独裁者としての地位を確立し、後世の歴史家から「前27年に初代皇帝に就任」といわれるようになった。


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