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「アイヴァンホー」はスコットランドの作家ウォルター・スコットが1820年に発表した長編小説。史実に基づいてはいるが、主人公は架空の人物。
《リチャード王の帰還》
翌日のはずだった弓術勝負が、その日の午後に突如行われ、緑衣の男ロクスリーが優勝した。昨日、彼と諍い(いさかい)のあったジョン殿下も名人芸に感服して士官をすすめたが、彼はリチャード王以外に仕える気の無いことを告げて姿を消した。
競技の予定を繰り上げたのは、「リチャード王が帰国した」との知らせが届いたからである。ジョンは、御前試合を早々に切り上げ、陣営の勢力を拡大するために、有力な貴族や郷士などを招いて大宴会を開くことにした。
サクソン王家の末裔アセルスタンと郷士セドリックは、ジョンの招きに応じたが、ロウィーナ姫は体調不良を理由に欠席した。宴会は始めこそ無難に過ぎていたが、終盤になるとしだいにサクソン人への侮蔑があからさまになり、最後にはとうとうセドリックが、腹いせに、主催者のジョンでなくリチャード王に乾杯を捧げて幕を閉じた。
《トルキルストン城の攻防》
ジョン殿下の側近が政治的な画策に奔走している一方で、陣営の中には、目先の欲望に執心している者たちもいた。トルキルストン城主と傭兵隊長、および聖堂団騎士ギルベールの3人は、共謀して、セドリックとアイザックの一行を、シェフィールドに帰る道の途中で、誘拐することを企てていた。美貌のロウィーナ姫とレベカ、それにアイザックの財産が目当てだった。
彼等は、緑衣の法外者集団に変装することで、自分たちの犯行を隠そうとしたが、うまく誘拐団の目を逃れた豚飼いのガースが、数日前の「義賊」を名乗る緑衣集団の首領に出会ったことで、企みが露見する。首領の正体は、弓術勝負の優勝者ロクスリーで、別名をロビン・フッドと言った。ロクスリーは、手下たちを動かし、一行がトルキルストン城に囚われていることを突きとめた。
城の地下牢で、アイザックは、拷問を受けるか、さもなくば銀貨一千ポンドを払え、と二者択一を迫られていた。また、ロウィーナ姫は、傭兵隊長からウィルフレッドやセドリックの命と引き換えに結婚を迫られ、レベカは高い塔の上の小部屋に押し込められていた。
日頃から災厄に対する心構えを意識してきたユダヤ人の娘は、静かな勇気を奮い起こして、まず部屋の造りを観察した。どこにも逃げ道がないのを確かめると、神の采配を信じる覚悟をした。
ギルベールは求愛を拒まれると、力ずくで迫ろうとしたが、レベカが屋上の縁で「獣の犠牲になるよりは、五体を粉微塵にしてみせる」と、決意を示すと、さすがのギルベールも折れざるを得なかった。
その頃、城の周囲にはロクスリーの率いる法外者200人とともに、サクソン人市民や主人の危機を知ってかけつけた奴僕などが続々と集結しており、その総勢は、「のらくら黒騎士」も含めて500人に達しようとしていた。
城の中では、老婆ウルリーカが、けが人のウィルフレッドの見張りを言いつけられていた。が、城内が慌ただしくなると、それをレベカに押しつけ、何処かへと姿を消した。前城主の娘だったウルリーカは、一族を殺され辱めを受けたことへの恨みを晴らせないまま、長い間、この城に閉じ込められてきたのだ。
一方、レベカは、ウィルフレッドの枕辺に立ったとき、胸の高鳴りと歓びを覚えた。起き上がろうとするウィルフレッドをなだめ、代わりに窓から外のようすを伺った。喧騒が止み静まりかえったのは、両軍とも戦闘の準備が整ったからだ。ほどなくして、ラッパの音が響くと、空がくらくなるほど夥しい矢が飛び交い、攻防が開始された。
数に勝る寄せ手側が、有利のまま戦闘が進んだ。やがて、守備側は、押し寄せる敵だけでなく、城内で燃え盛る炎とも戦わなくてはならなくなった。ウルリーカが薪炭庫に火を放ったのだ。彼女は、敵・味方の区別なく、すべてを城と共に焼き払おうとした。復讐を果たし、両腕を振って喜ぶ老婆の姿が、やぐらが崩れるのと同時に炎の中に飲み込まれ、トルキルストン城は落城した。
《魔女裁判》
誘拐の首謀者3名のうち、一人は戦死し、もう一人は捕虜となった。残った聖堂団騎士のギルベールだけは、レベカをさらって逃亡し、弟が教堂長をつとめるテンプルストウ教堂の中に逃げ込んだ。アイザックが書状を携えて、レベカの解放を願い出ると、教堂長はギルベールの罪を隠すために、レベカを魔女に仕立て上げることにした。
教団の大長老や各地の教堂長が列席する中で、魔女裁判が開かれた。ギルベールは、むしろ、レベカへの無罪判決を願っていたが、事態はすでに彼の手を離れ、教団全体にかかわる問題となっていた。レベカへの恩返しをしたい一心で証言台に立った男は「それこそ魔女の手練手管」と反駁され、教堂長が金でやとった証人の、荒唐無稽な話は信じられた。
死刑判決が下った。ギルベールは、死刑囚に残された最後の権利である「決闘による正邪の判定」で、自分がレベカの代理戦士となって、彼女を救い、愛を得ようと目論んだ。が、意に反して、彼自身が教団側の代表として、レベカの代理戦士を迎え撃つ羽目になった。
大勢の見物人が見守る中、魔女の処刑を知らせる鐘が鳴り響いて、騎乗した大長老・教堂長らに続いて、甲冑に身を固めたギルベールが登場した。さらに聖堂団騎士の列が続き、その槍の間から白衣のレベカの姿も見えた。レベカは薪の積み重ねられた横の黒椅子に座らされ、そこで、代理戦士の現れてくれるのを待った。
日暮れが迫り、皆が、ユダヤ娘のために代理戦士を引き受けるものは誰もいない、と思ったとき、ようやく、ウィルフレッドが到着した。かけ通しで来た馬と病み上がりの騎士は、見るからに頼りないようすだったが、両者の対戦は一瞬で決着がついた。眉間を突かれ、横たわるギルベールの体には、傷ひとつなかった。まるで、内面の懊悩によって死を迎えたようにも思えた。
その直後、黒騎士ことリチャード一世と、騎士・武装兵士の一団もかけつけ、教堂長らによる魔女捏造の陰謀も断罪された。
《ウィルフレッドの結婚》
リチャード王が復権したことで、サクソン王家復興の可能性は完全になくなった。しかし、リチャード王はサクソン人にも公平に接したので、その重臣であるウィルフレッドことアイバンホー公の名声も高まった。それにつれて、セドリックにもしだいにイングランド新王朝への忠誠心が芽生え、ようやくウィルフレッドとロウィーナ姫との結婚を承知した。
結婚式を終えて2日目の朝、レベカがロウィーナを訪ねてきた。レベカの一家はイギリスを離れ、グラナダ国の叔父のもとに身を寄せることになったのだそうだ。「苦難から救われた女は、病人や飢えた者を助け、一生、神さまに思いを捧げて生きるつもりです」と、恩人への感謝を伝え、すべるように部屋を出て行った。
二人の結婚は、国民からも、両民族の融和の兆しとして歓迎された。事実、フランク人とサクソン人の間にあった差別は、セドリックが存命の間に早くも見られなくなり、さらに100年がすぎた頃には、フランク語とサクソン語からなる、あの混成語が公用語となって、現在では英語と呼ばれている。
※「アイヴァンホー」ウォルタースコット著、
中野好夫訳、Kindle版を参考にしました。
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