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ハーシェルは、1シリオメートルが何kmなのか知らないまま、この世を去った。それを明らかにしたのは、ドイツのフリードリッヒ・ヴィルヘルム・ベッセルだった。彼は、最新鋭の望遠鏡とそれを28年間操作し続けて得た観測技術を使って、白鳥座61番星の見える方角が6ヶ月間でどう変化するかを測定した。
地球は、1億5千万km離れた太陽のまわりを12ヶ月で一周する。そのため、半年後には同じ星を太陽の反対側にあたる3億km離れた位置から観測することになる。彼は、半年間でその角度が0.001742度だけ変化していることを検出した。これは「年周視差」と呼ばれ、ギリシア時代から「地球が動いていることの重要な証拠」と言われてきたが、実際にそれを太陽系のはるか遠くにある星で確認できたのはベッセルが最初だった。
この観測によって、白鳥座61番星までは100兆km (現在の測定技術では108兆km)であることがわかり、銀河系と呼ばれるパンケーキ型の宇宙の直径は1万光年、高さは1千光年であることも算出された。「光年」とは距離の単位で、光が1年間に進むことのできる長さ、約9兆5千億kmを表している。
現在では、最新の観測技術によって、銀河系の直径は10万光年、厚さは1万光年に修正されているが、人類が宇宙の大きさを根拠のある数字で表すことができたのは、このときが初めてだった。
多くの科学者は、パンケーキ型に星の集まったこの空間が宇宙のすべてだと考えたが、同じような星の集まりが他にもたくさんあると考える人たちもいた。その中の一人である、ドイツの哲学者イマニュエル・カントは「銀河系と同じような星の集団が他にもあり、大海原に島が点在するように宇宙にも星でできた島が点在している」と考え、それらを「島宇宙」と呼んだ。
彼の主張は「神が全能なら、宇宙は永遠で無限に大きいはず」という神学的な理由に根ざしていたが、それだけでなく「古くから知られている『星雲』こそが島宇宙で、その多くが楕円形なのは、パンケーキのような円盤形を様々な方向から見ているからだ」という観測結果に基づいたものでもあった。
こうして、我々の住む銀河系が唯一の宇宙なのか、それとも同じような銀河が無数にあるのか、という問題を解決するための糸口として、星雲が注目されるようになった。
「宇宙創生」サイモン・シン著 青木薫訳 新潮社を参考にしています。
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