2023年4月18日火曜日

天文学こと始めⅡ ー ④ハッブル と宇宙の大きさ ー

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○星雲、銀河、銀河系

 「宇宙には我々の銀河系しかない」のか、それとも「銀河系のような星の集団が、宇宙にはたくさん存在するのか」という問題について、優勢だったのは「我々の銀河系しかない」説の方だった。

 「たくさん存在する」説の支持者たちは、星雲こそが遠くにある銀河だ、と主張していたが、その分布している場所の片寄りが問題だった。これまでに見つかっている星雲は、銀河系の上下方向に多く、水平方向に少なかった。「無数の銀河が無限の空間に存在しているのなら、どの方向からも同じだけ見つかるはずだ」という指摘に反論することができないでいた。

 リーヴィットらの努力によって、すでに距離のわかっている星雲もあったが、その小マゼラン星雲は非常に小さな星雲で、距離も我々の銀河系に接していると言えるほど近かったために、この問題の解決にはつながらなかった。

100インチ望遠鏡

 ウィルソン山天文台に着任したばかりのエドウィン・パウエル・ハッブル(アメリカ)は、「星雲は、銀河系の外にある別の銀河」と考えていたが、天文台の中では孤立無縁の状態だった。イギリスかぶれの気取った若造に見えるハッブルだったが、標高1,742mの凍える山頂の天文台で、集中力を持続させながら観測を続けることのできる、強靭(きょうじん)な意志と体力を持っていた。

 4年後の1923年、ハッブルは世界最強の100インチ望遠鏡をアンドロメダ星雲に向けていた。天候はドームを閉じなくてはいけない寸前の状態だったが、写真装置に振動を与えないように身震いをこらえながら40分間露光して1枚を撮影した。翌晩も、前夜より長めに露光してまた1枚を撮影。その2枚を資料室にある過去の撮影画像と見くらべているときに、新星らしき3つのシミのうちの1つがセファイドと呼ばれる変光星であることに気づいた。

 セファイドがあれば、距離を知ることができる。アンドロメダ星雲は、銀河系を遠く離れた90万光年のかなたにあることがわかった。宇宙には、無数の銀河が存在することを示す大発見だったが、彼はさらなる証拠が見つかるまで発表を控え、写真を撮り続けた。翌年に2つ目のセファイドを発見し、ようやく確信を持って発表した。

かみのけ座銀河団

 すると、数年のうちに、もっと遠くにある星雲も次々と明らかになり、以前は雲のように見える天体すべてを表すことばだった「星雲」は、我々の銀河系の中にあるガスと塵の集まりだけを指すようになった。また、カントが「島宇宙」と表現した、銀河系と同じようなはるか遠くにある星の集団はすべて「銀河」と呼ばれるようになった。

 また、銀河系の水平方向には星雲がほとんど見えない理由についても、現在では、光をさえぎる塵によって遠くの銀河が見えにくくなっていることが、塵の向こう側まで見通すことのできる望遠鏡の登場によって証明されている。

 銀河系の直径と同じ、と考えられていた宇宙の大きさを、果てしなく広げたハッブルの発見は「天文学者が生涯に一度、経験できるかどうかの幸運」と賞賛されたが、彼はこの後も天文学の世界をゆるがすような発見を重ねる。それは、天文学と物理学の融合による成果だった。

「宇宙創生」サイモン・シン著 青木薫訳 新潮社を参考にしています。

 

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