2017年8月5日土曜日

制定居合① Q&A

目次    

 
今野敏氏の小説「義珍の拳」には、マンツーマンの指導で受けつがれてきた唐手を、学校体育の中で空手として指導するにあたっての、主人公の戸惑いが描かれていた。科学の分野でも寺田寅彦氏の随筆に、最高水準の技術はマンツーマンで伝えられ研究室レベルで受けつがれていく、というものがあった。学校教育や書物だけによる学習では、到達できる水準に限界があるらしい。

 さて、60の手習いではじめた居合道であるが、先生を囲む少人数での稽古会なので、私にとっては大変恵まれた環境といえる。そうであるならば、一流の遣い手を目指すべきとは思うが「皆にできることを、皆と同じくらいにできるようになりたい」という程度の気概しか持ち合わせてなくて、申し訳ない。

 居合道の中でも「基本的なもの」とされる制定居合について、日頃よく指導される留意点をQ&A形式でまとめてみた。
* 青字は後に追加した項目。
一本目(前)
Q1 刀に手をかけるとき、柄が右手にうまく収まらない。
A1 鞘を左手ですこし左に回して、右手をかける。
Q2 抜きつけたときの正しい姿勢は?
A2 上体は約45度左へ開くが、ヘソは正面を向く。ヘソの向きは、左足先の位置で決まる。
Q3 刃の向きを変えるのは、どのタイミング?
A3 10cmほど抜いたあたりから鞘を徐々に回し始める。抜きつけ前に急に回すと敵に覚られる。
Q4 抜きつけに冴えがでない。
A4 徐破急で抜きつけるには鞘引きが大切。こじりが右腰の斜め上に跳ね上がるくらい引くこと。刀帯が栗形にこすられてほつれるくらいに修練を重ねること。
* 右手で抜く間は、左手の親指を樋にあてておく、抜きつけは両手で行い、抜き終わったときに親指は鯉口をふさぐ。
Q5 振りかぶりと切り下ろしで切っ先が下がる。
A5 柄にかかる小指を効かせる。鏡等で感覚を覚える。切り下ろしたときの右手は膝頭の横。切っ先は水平よりわずかに下がる。大きな円を描くように、切っ先を意識して振る。
Q6 血振りなどで足を後ろに引くと、へっぴり腰になる。
A6 後ろに引いた足の膕(ひかがみ)は伸ばし、踵(かかと)は上げすぎない。1〜2cmにとどめること。
* まとめてみて、一本目の数の多さに驚いた。しかし、要諦は一本目に集約されているそうだから、以後はしだいに減っていくはずだ。

二本目(後)
Q1 右ヒザを軸にしているのに、うまく回れない。
A1 両足裏が離れないように意識すると、軸が安定する。
Q2 抜きつけ・切り下ろしは、一本目とどう違う?
A2 右足のスネが180度真後ろに回っているか。左足を踏みかえると同時に抜きつけているか。

三本目(受け流し)
Q1 敵の刀が鎬でなく、刃に当たってしまう。
A1 柄にかける右手は横手。
Q2 スムーズに立ち上がれない。
A2 左足を踏み出し過ぎないこと。右膝より手前を踏む。
Q3 動きがギクシャクしてしまう。
A3 立ち上がって受け流すときにヒザを伸ばしてしまわない。ヒザにゆとりを持たせて、腰の上下動を抑える。
Q4 袈裟に切り下ろすときに、からだが左を向きすぎる。
A4 切り下ろしたときの左足の位置が、右足の真後ろの方向にくるように引く。ただし、ふらつきやすくなるので右の足先を内向き気味にする。
Q5 切り下ろしたとき、切っ先がからだの左側まで来ない。
A5 左手がからだの中心線を外れていないか?右手首を曲げて、かぶせぎみにする。
* 後に、受け流す時の右手の位置と、切り下ろすときに左手で刀を操作することを意識すると、Q4・Q5の問題は改善されることが分かった。したがって、右手首を不自然にかぶせ気味にする必要もなくなった。
Q6 横血振りのとき、十分振れるように、刀を一旦左に動かして良いか?
A6 予備動作なので良くない。

四本目(柄当て)
Q1 敵の水月の位置が分からない。
A1 柄頭をほぼ水平に突き出した高さが、水月の位置。
Q2 鞘の操作が分からない。
A2 左足のスネを90度回したときに鞘から抜き放つ。刃と鞘が平行になるように構え、突くときは左手と右手がからだの前で交差するように逆の動きをする。その時も刃と鞘は平行になる。
Q3 突きの方向が定まらず、真後ろの敵を突けない。
A3 後ろの敵の水月を突くとき、柄を右腕の前腕部の下に収めると刃の向きが定まる。また、右足のヒザは、前の敵を制するつもりで向きを変えない。
Q4 切り下ろしに冴えが出ない。
A4 後ろを突いた後、鞘を持った左手はそのまま上にあがって柄を握る。左手の無駄がなくなると、冴えも出てくる。
Q5 横血振りをしたときの、正しい切っ先の高さや刃の方向が分からない。
A5 床に置いた刀を、そのまま傾きを変えずに持ち上げたときの形にするとよい。
* その他、正面の敵に柄当てしたり切り下ろしたりするときは、左足のスネが左膝の真後ろになるように回っていないと、敵の圧力に耐えられない。

五本目(袈裟切り)
Q1 逆袈裟に切り上げる角度が十分でない。
A1 刃を10cmほど抜いたあたりから鞘を返し始めないと、切り上げの角度が不足しがちになる。
Q2 技全体を通じて、腰が上下に揺れる。
A2 前進するときの歩幅や切り上げなど、動作が大きいと腰が上下しがちになる。力まないこと。
Q3 八相の構えは、剣道形と同じでよいのか?
A3 剣道形と異なるのは、からだが敵と正対するところ。鍔の位置は唇の横で同じ

六本目(諸手突き)
Q1 抜き打ちで、敵のあごまで切り下ろすことができない。不十分な高さでとまってしまう。
A1 手がけた後、左手で刀の柄側を持ち上げ、やや上方向に抜き、切りつける。
Q2 抜き打ちの後、左足を前足に寄せすぎると切っ先が下がったり、腰が浮いたりする。
A2 抜き打ちで左に開いたからだを、正面に向けるくらいの気持ちで良い。そのとき、膝をコントロールして腰が浮くのを抑える。左足のつま先が正面を向くと、腰の入った突きができる。

七本目(三方切り)
Q1 三方から敵に囲まれていると思うと、気持ちがあせってちょこちょこした技になってしまう。
A1 特に、正面の敵を威圧することで切りかかってくるのを防ぎながら、右と左の敵を順に倒す。右の敵を倒した後、正面の敵に目をやることを忘れない。
Q2 左上段の構えが、剣道形のように傾いてしまう。
A2 左上段も敵に正対する。右足のつま先を正面に向けるためには、睾丸を太腿ではさむつもりで足を引くとよい。

八本目(顔面当て)
Q1 後ろの敵に振り返るとき、刀を腰にとることができない。高くなってしまう。
A1 右手で抜くと高くなる。後ろの敵に振り向きながら鞘引きし、右足を軸に回ったときに鞘放れする。同時に、左足を踏みかえ構える。
Q1 後ろの敵の水月を突けない。高い位置を突いてしまう。
A1 思い切り突きすぎると右こぶしが高くなる。右足を踏み出した勢いで右手と刀が前に出る程度に突き出し、左手を引くことで冴えを出す。

九本目(添え手突き)
Q1 抜き打ちで、右こぶしがへそより高い位置でとまってしまう。
A1 手がけた後、左手で刀の柄側を持ち上げ、やや上方向に抜くつもりで切りつける。
Q2 突くとき、右の足先が右前方を向かないままになる。
A2 三歩めで右足を真直ぐ正面に踏み出した後、右足から先に左の敵につま先を向けそれに追随して左足も向きを変えることで、足先が敵の方向を向く。また、添え手突きの構えを取るときに、右足を引きすぎない。足の大きさの半分程度にとどめる。そのとき、両足のつま先を斜め右に向ける。
Q3 突くとき、水平でなく剣先が上がり気味になる。
A3 切りつけた後、右こぶしがへその高さになるように引き寄せて構える。このときに剣先が下がると、突くときに上がってしまう。そして、左手で押し出すように突く。

十本目(四方切り)
○ 柄当ての前に、柄を下げる人が多い。予備動作は避けること。
○ 後ろの敵を突くときの鞘の動きは、四本目と同じ。抜き放ちと突きでは刀と鞘が平行になっていること。

十一本目(総切り)
○ 右足を引き終わるのと同時に抜き放つ。
○ 前進しながら切るときに、腰高になりがち。腰をしだいに下げながら切っていくつもりで前進すると安定する。ただし、左足を十分にひきつけながら前進しないと、腰が実際にだんだん沈んでしまう。

十二本目(抜き打ち)
○ 刀の操作は身近くで行うこと。ただし、そのために自分の刀でケガをする人も多い。

 *私の記憶ちがいの部分があるかも知れません。


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